高校でも切れ目なく 個別支援、
対象生徒増加に伴い 教員育成がカギ
小中学校で先行して拡充が進んできた通級指導。
高校でも支援が必要な生徒の増加が見込まれ、徐々に広がってきた。
専門家は、切れ目なく児童生徒を支援できるよう、教員の育成などの体制整備を急ぐよう求めている。
「どういう時に怒りを感じる? 感じたらどういう行動に出る?」
昨年12月のある日の放課後。大阪府立和泉総合高校の教室では「アンガーマネジメント」をテーマに通級指導が行われていた。
担当の押谷雅人教諭は生徒と1対1で向き合い、怒りを感じた時の要因を聞いていた。
生徒は幼い頃から感情のコントロールが苦手で、高校入学後に通級指導を希望。
押谷教諭はこの日、怒りの原因を分析し、感情を抑える対応方法を探っていった。
同校で通級指導が始まったのは2年前。大阪府では2018年度から府立高での通級指導を進めている。
現在11校に設置され、週1~2回放課後などに実施されている。
東京都も21年度から、全ての都立高校で通級指導を受けられる制度を導入した。
高校で通級指導が広がる背景には、支援が必要な生徒の増加がある。
■公立中で2万人超
公立小中学校を対象にした文部科学省の調査では、通常学級で学習または行動で著しい困難を示し発達障害の可能性がある児童生徒の割合は、12年の6・5%から22年に8・8%に増加。
全国の公立中学で通級指導を受ける生徒数も11年度の5196人から21年度は2万7609人に増えた。
高校での指導は、学校側が必要と判断した生徒でも、担当できる教員がいないなど体制が不十分なために受けられないこともあるという。
制度化して間もないため、学校側も模索中だ。
梅花女子大学の伊丹昌一教授(特別支援教育)は、専門の教員の育成を急ぐべきだと指摘する。
「支援が必要な多くの子どもが今後、高校で学ぶことが予想される。しっかりと体制を整え、小中高と切れ目のない支援をすることが必要だ」
3年前に府立和泉総合高校を卒業した女性(21)は、同校の通級指導教室の前身となる学校独自の個別指導を約3年間受けた。
女性には学習障害(LD)があり文字の読み書きや計算が苦手。
授業は板書を書き写すことで精いっぱいで、理解が追いつかなかった。
地図や情報を読み取ることが難しく、一人で出かけることに消極的だったという。
同校と近隣の府立和泉支援学校が調べたところ、女性は目で物ごとを捉える力が弱いことが判明。点と点を線でつなぐ練習など、目の動きを鍛えるトレーニングを個別指導で繰り返した。
徐々に、女性の視覚認知能力は改善して、授業中に余裕をもってノートをとれるようになったという。
■「苦手」徐々に克服
「何よりもできると感じることが増え、うれしかった」と女性は振り返る。成功体験を積み重ねることで、苦手だった調べ物にも意欲的に取り組むようになった。
高校を卒業した後は地元で就職。
今はスマホで地図や情報を調べながら、電車で一人で遠出をすることが楽しみになった。
「昔の自分だったら、とても考えられなかったことです」と笑顔を見せる。
◆キーワード
<通級指導>
学習障害や言語障害、難聴などにより学習や行動に困難がある児童生徒が、通常の学級に在籍しながら、別の教室や学校で特性に合わせた指導を受けられる制度。
1993年度に小・中学校で始まり、2018年度に高校でも制度化された。
21年度は全国の小中高で18万3879人の児童生徒が指導を受けた。
朝日新聞 2024年1月15日(月)朝刊より
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